台風は逸れて、風は吹いているけれど、日差しが強い。アスファルトを日差しがじりじりと焼き、照り返しが人々の肌や車の表面を焦がす。
私は34歳の夏を満喫している。コロナ禍だから、人とはあまり会えなくても、私には本と音楽がある。大江健三郎とリンキン・パークがあれば、そこはいつでもパラダイスだ。
カフェではエアコンが適度に効いていて、BGMは若者達の楽しそうな話し声。ショートサイズのアイスコーヒーは夢への誘いだ。
私は今、2021年の夏を生きている。中学生や高校生みたいに夏が永遠に何度も繰り返すみたいな妄想はいい意味で持てないから、人生がその瞬間を逃したら、二度と取り返せないということも知っているから、今のこの瞬間をただ感じ、生きている。
過去に戻ることは絶対に無理で、ノスタルジーに浸っている暇はない。生きるのが可能なのは「今」だけで、その積み重ねが「未来」だ。
インパクトを与えたい。衝撃的な、ざわめくような、今までの価値観がひっくり返ってしまうような、鮮やかな、一撃を与えたい。そのためにひたすらに刀を磨いているのだ。文士として。