夢・光・音

日々の生活の中で生まれてくる想いや感情を詩や文章などで吐き出そうと思います

列車

私達は錆びついた列車で行き先知れずの旅をしている。太田は黙して語らず、煙草をふかしている。今までにあった様々な情景を浮かべながら。横顔から見える疲れやシワは彼が43年という歳月を苦悩しながら、苦闘しながら戦ってきたことを示している。

客車で眠る只木は大きないびきをかいている。欲望や苦悩から解放されたこの男は聖書を脇に置き、盛大にいびきの交響曲を奏でている。

私は人生や未来に対する期待と同じ分だけの不安や心細さを抱え、目を凝らせばそこに何かが見えるはずだと苦心していた。当然何かなんて見えるはずはなく、見えるとしたら茫漠とした闇だけだった。

星が瞬いていた。何万光年先の光は私の目に届き、瞳の中で輝いていた。

ずっと遠くで風が吹き、空気を震わせていた。コオロギの鳴く声とススキが風にそよぐ音が聴こえた。列車が汽笛を鳴らし、静寂の夜を切り裂いた。